Python以外にJavaでもAI開発できる?機械学習向けライブラリも紹介
AI開発において主流のプログラミング言語となっているPythonですが、他に使える言語はないのでしょうか?
実はJavaも有力な選択肢となります。というのも、Javaを使用しているプログラマーや企業は少なくなく、非常に人気の高い言語であることに間違いはありません。
しかし、あまりにもPythonがAI開発におけるゴールドスタンダードとして有名なため、JavaのAI開発事例や活用方法について知られていないことが多いでしょう。
そこで本記事では、JavaがAI開発に使われる理由や、実際にJavaを用いたAI開発の事例を紹介します。
また、Pythonと比較しながら、機械学習向けのライブラリについても詳しく解説します。
JavaがAI開発に使われる理由

Javaはその強力な特性により、AI開発において有力な選択肢です。
以下では、プラットフォーム非依存性、豊富な機械学習ライブラリ、既存システムとの高い相性など、JavaがAI開発に適している主な理由を詳しく解説します。
Javaのプラットフォーム非依存性
Javaのプラットフォーム非依存性は、AI開発において大変重要な利点です。Javaは、一度開発されたコードはWindows、macOS、Linuxなど多様なOS上で再コンパイルなしに実行可能です。
これにより、異なる環境間での互換性を気にすることなく、効率的にAIアプリケーションを展開できます。
また、Javaは「Write Once, Run Anywhere!」(一度書けばどこでも動く)という理念のもと、クロスプラットフォーム開発を可能にしています。
このようなプラットフォーム非依存性により、Javaは多様な環境下でのAI開発に最適な選択肢となっています。
Javaの機械学習ライブラリの充実
意外と知られていませんが、Javaの機械学習ライブラリは多岐にわたり強力なツールを提供しています。
代表的なライブラリとして、Wekaはデータマイニングと機械学習の幅広い手法をサポートし、教育用途でも広く利用されています。
Deeplearning4jはディープラーニングに特化しており、ニューラルネットワークの構築とトレーニングを効率的に行うことが可能です。
Apache Mahoutは大規模データセット向けの機械学習アルゴリズムを提供し、分散処理環境でのスケーラビリティを確保します。
これらのライブラリはJavaの堅牢なエコシステムと統合されており、既存のJavaベースのシステムとの互換性も優れていますし、最新の技術動向に対応することができます。
Javaが既存システムとの相性がいい
Javaは長年にわたり企業の基幹システムやウェブアプリケーションに採用されているため、AI開発をする際にも既存システムとの相性が非常に良いです。
Javaの高いセキュリティ性とパフォーマンスは、商用システムにおける信頼性の確保に寄与します。加えて、Javaは大規模なエンタープライズ環境での実績が豊富であるため、企業は既存のJavaエコシステムを活用しつつ、新しいAI機能を効率的に実装することが可能となります。
例えば、Spring FrameworkのサブプロジェクトであるSpring AIなどは既存のJavaアプリケーションにAI機能を容易に統合することが可能です。 つまり、開発コストの削減や運用の効率化も期待できるのです。
JavaでAI開発をしている事例

ここまでJavaのAI開発現場で好まれる理由を解説してきましたが、実際に扱われている事例に関してはどうでしょうか。
実は、世界的にも有名なテック企業たちもJavaをAI開発・導入に使用しているのです。
本節では代表的な事例をご紹介しましょう。
Netflix
Netflixは、ユーザーの視聴履歴や行動データを分析し、個々のユーザーに最適化されたコンテンツ推薦を実現するために、JavaベースのAI技術を活用しています。
その主要因は、Javaの高いスケーラビリティと信頼性により、大量のデータ処理やリアルタイム分析が可能となり、ユーザー体験の向上に大きく寄与しています。また、Javaの豊富なライブラリやフレームワークを利用することで、機械学習モデルの開発や運用を効率化し、迅速なアルゴリズムの改良や新機能の実装を促進しています。
このシステムにより、ユーザーは自分の好みに合った作品を簡単に見つけることができ、視聴率の向上や会員継続率の増加に寄与しています。
Googleは、検索エンジンのインデックス生成やランキング学習、広告配信基盤、YouTubeのコンテンツ推薦など、多岐にわたるAI関連基盤でJavaを活用しています。Javaの高いパフォーマンスとスケーラビリティ、そしてJVMエコシステムにより、大量データ処理やリアルタイム分析が役に立っているようです。
検索とYouTubeのコア推論サーバーは主にC++ですがJava 製パイプラインがインデックス生成やログ学習、オフライン特徴量計算に広く使われているのも事実です。
さらに、Vertex AI Java SDKなど、Googleが提供する豊富なオープンソースライブラリ/フレームワークを活用することで、AI機能の迅速な開発と展開が実現されています。
JPMorgan Chase
JPMorgan Chase は、金融業界における AI 活用で Java を中核技術の一つとして採用しています。リスク分析、取引の自動化、不正検知といった領域では、Java製マイクロサービスや Apache Flink/Beam パイプラインを用いて膨大な取引データをリアルタイムに処理し、高い信頼性とスケーラビリティを発揮しています。
静的型付けとメモリ安全性を備えた Java と社内の厳格なセキュリティ/レビュー体制が組み合わさることで、顧客データの保護とコンプライアンス遵守を確実にしています。
例として、同社のCOiN (Contract Intelligence) は年 12,000 件の信用契約書を数秒で解析し、年間36 万時間もの法務業務を削減しました。
こうした取り組みにより、JPMorgan Chaseは 2023年時点でAIによって15億ドル超の付加価値を創出しているとも言われています。
PythonがAI開発に向いている理由

ここまではJavaのAI開発シーンについて解説してきましたが、やはりAI開発のゴールドスタンダードといえばPythonです。
本節では、PythonがAI開発に向いている具体的な理由について詳しく解説します。
AI開発ライブラリ・フレームワークが豊富
Pythonは、TensorFlow、PyTorch、scikit-learn、Kerasなど、多岐にわたるAI開発用ライブラリやフレームワークを豊富に備えています。
機械学習や深層学習、データ処理、モデルのデプロイメントなど、様々なAI開発のニーズに対応しており、開発効率の向上と高品質なシステムの構築を可能にしてくれることで有名なサポートアイテムが勢揃いといったところです。
2023年にはOpenAIのChatGPTを筆頭に大規模言語モデル(LLM)が社会現象となり、それに呼応する形でオープンソースのLLM関連プロジェクトが急増しました。GitHub上の生成AIプロジェクト数は2023年から2024年にかけて98%増と急増しており、多くの開発者がこの流れに参加しています。
このいわゆる「AIブーム」の中で、Pythonライブラリやフレームワークが業界で瞬く間に一大センセーショナルを巻き起こしたといっても過言ではありません。
PythonのAI開発用ライブラリやフレームワークは、最新の技術動向を迅速に取り入れ、高品質なAIシステムを効率的に構築できる環境の礎となっているのです。
AI開発の現場で広く採用されている
Pythonはシンプルで直感的な文法に加え、先ほどご紹介したAIライブラリの存在から、AI開発の現場で広く採用されています。
つまり、どこへ行ってもPythonが書ければAI開発に着手することが容易であるということになります。単純なプロジェクト速度・効率の向上が図られるのです。
その恩恵を受けてか、Pythonはグローバルな開発者コミュニティによるサポートや最新技術の迅速な取り込みが可能であり、常に最先端のAI開発を実現する基盤となっています。
また、Stable Diffusionに代表される画像生成AIプロジェクト等々でもPythonの力が遺憾なく発揮されました。Stable Diffusionの公式実装はPython(PyTorch)で記述されています。
公開直後から世界中の開発者がこのモデルを試しましたが、その素地となったのがPython+PyTorchのオープンなコードでした。
PythonはAI開発の現場で広く採用されており、複雑なアルゴリズムの実装を容易にし、開発速度の向上を実現していることからも人気の理由が伺えます。
コーディングがシンプル
Pythonはなんといってもシンプルで明快な文法がその魅力でしょう。
一部のプログラマー界隈ではこれが批判の対象になっている噂もありますが、AI開発においては逆に大きな利点となります。
複雑なアルゴリズムやモデルを実装する際でも、コードが直感的で理解しやすいため、開発者はロジックの設計や問題解決に集中できます。つまり、メンテナンスが容易になります。
この保守性の高さというのは非常に大きなアドバンテージとなり、チーム内での協力やコードレビューが効率的に行われ、プロジェクトの進行がスムーズになります。
Pythonのコーディングの容易さは、AI開発を迅速かつ効果的に進めるための重要な要素となっています。
Pythonが採用されているAI事例
Pythonに関してもJavaと同様に活用事例をご紹介したいかと思います。
本節では、Pythonが活用されている代表的なAI事例として、自然言語処理、機械学習フレームワーク、およびライブラリを取り上げ、それぞれの特徴とPythonとの相性について詳しく解説します。
ChatGPT(AIモデル・サービス)
ChatGPTは、OpenAIによって開発された先進的な自然言語処理(NLP)モデルで、Google が提案した Transformerアーキテクチャ(自己注意機構)をベースにした大規模言語モデルです。
このサービスは Pythonを基盤とし、PyTorchを中心に構築・訓練されています(初期世代では TensorFlow実装も併用されていましたが、2020年以降はPyTorch へ標準化)。
このTransformerの機構を実現しているのがPython言語です。強力なディープラーニングライブラリとPython エコシステムにより、モデルの学習とデプロイが効率化され、継続的な改善も迅速に行われています。
こうした技術基盤に支えられ、ChatGPT はユーザーに高度で自然な対話型 AI 体験を提供しています。
Tensorflow(フレームワーク)
TensorFlowはGoogleが開発したオープンソースの機械学習フレームワークで、ディープラーニングモデルの構築と訓練に広く利用されています。
Pythonとの親和性が高く、豊富なライブラリとツール群により複雑なモデルを効率的に設計・実装できます。高いパフォーマンスとスケーラビリティを備えるため、研究用途から産業応用まで幅広く採用されています。
TensorFlow Lite(新名称「LiteRT」)はPyTorch、JAX、Kerasなど他フレームワークで作成したモデルにも対応し、オンデバイスで高いパフォーマンスを発揮します。
また、2023年7月にリリースされた「TensorFlow 2.13」と「Keras 2.13」ではApple Silicon向けビルドの提供やTensorFlow Lite機能の強化などが行われ、より多様な環境でのモデル開発とデプロイが容易になりました。
こうした進化により、TensorFlowは多様なニーズに応える強力なツールとして機械学習分野での活用がさらに広がっています
PyTorch(機械学習ライブラリ)
PyTorchはMeta(旧Facebook)が開発したオープンソースの機械学習ライブラリで、特にディープラーニング分野で高く評価されています。
動的計算グラフを採用しているためモデル設計が柔軟でデバッグも容易です。Pythonとの親和性が高く、活発なコミュニティのおかげで最新の研究成果やツールが迅速に取り入れられています。
PyTorch 2.5(2024年10月17日リリース)では、Scaled Dot-Product Attention向けの新しいcuDNNバックエンドが追加され、NVIDIA H100以降のGPUでデフォルトの高速化が有効になりました。これにより、大規模言語モデルや生成AIのトレーニング・推論がさらに効率化されています。
PyTorchは研究から商用アプリケーションまで幅広い領域で利用され、開発者にとって信頼性の高い強力なツールとなっています。
まとめ
Pythonは豊富なライブラリとシンプルな構文により、AI開発において最も広く採用されています。一方で、Javaもプラットフォーム非依存性や既存システムとの相性の良さから、特定の用途で有用です。プロジェクトの要件や既存の技術基盤に応じて、適切な言語を選択することが重要です。両言語それぞれの強みを活かし、効果的なAI開発を推進しましょう。
この記事の著者

児玉慶一
執行役員/ AI・ITエンジニア
愛称: ケーイチ
1999年2月生まれ。大学へ現役進学後数ヶ月で通信キャリアの営業代理店を経験。営業商材をもとに100名規模の学生団体を構築。個人事業主として2018年〜2020年2月まで活動したのち、2020年4月に広告営業事業を営む株式会社TOYを創業。同時期にITの可能性を感じプログラミングを始め、現在はITエンジニアとして活動中。2021年にLeograph株式会社に参画し、AI研究開発やWebアプリ開発などを手掛ける。 「Don't repeat yourself(重複作業をなくそう)」「Garbage in, Garbage out(無意味なデータは、無意味な結果をもたらす)」をモットーにエンジニア業務をこなす。
【得意領域】
業務効率化AIモデル開発
事業課題、戦略工程からシステム開発
Webマーケティング戦略からSaaS開発