AI開発に必要な技術とは?開発の流れや必要な環境について解説!
現代のビジネス環境において、AIの導入は競争力を高める重要な要素となっています。しかし、多くの企業がAI開発に必要な具体的な技術やプロセスについて十分な知識を持っていないのが現状です。
本記事では、「AI開発に必要な技術」「AI開発の流れ」「AI開発に必要な環境」について詳しく解説します。
AI開発を検討している企業様にとって、実践的かつ有益な情報を提供することを目指します。
AI開発に必要な技術
AI開発には、多岐にわたる技術が必要です。
データの収集・管理からモデルの設計・実装に至るまで、各工程で適切な技術選定が必要となります。特に、上流工程はAIモデルの性能や信頼性を強く左右する要素と言っても過言ではありません。
以下では、これらの主要な技術について詳しく解説し、それぞれがどのようにAI開発に寄与するのかを解説しております。
データエンジニアリング
データエンジニアリングは、AI開発における基盤となるデータの品質と整合性を確保するための重要なプロセスです。
収集した情報を適切に判断し、プロジェクトに必要なデータを選別する能力が求められます。データクレンジングの段階では、欠損値や異常値の処理、フォーマットの統一などを行い、データの一貫性と信頼性を向上させることに注力しましょう。
データエンジニアは、データの特性を深く理解し、最適な処理方法を選択することができる人材を配置することを心がけましょう。
システムエンジニアリング
システムエンジニアリングは、全体的なシステムの設計、構築、運用を担うパートです。通常のITシステム開発と同様に、AI開発においてもSE(システムエンジニア)は必要と捉えていいでしょう。
システムを構成する上流要素の整合性が確保されていなければ、開発プロセスは円滑に進行しません。設計段階での要件定義やアーキテクチャ設計において、各要素が矛盾なく統一された方針で進められることが求められます。
ステムエンジニアリングの質がAI開発の成功を左右する重要な要素であることは言うまでもありません。
統計・確率論
AIシステムは、大量のデータから有用な情報を抽出し、将来の予測や意思決定を行う際に、統計的手法や確率的モデルを活用しています。
言って仕舞えば、AIは「統計的に確からしいものを出す」「確率的にもっともらしいことを言う」といった非常に数学的な振る舞いを基礎とする分野のため、やはりこれも必要不可欠です。
統計学はデータの収集、整理、分析、解釈を通じて、データに潜むパターンや傾向を明らかにしてくれます。確率論はAIモデルが不確実性を扱う際の理論的基盤を構成する要素です。
多くのAIアルゴリズム、特に機械学習や深層学習においては、確率分布やベイズ推定といった概念が活用されており、これによりモデルはデータのばらつきやノイズを考慮しながら、より頑健な予測を実現します。
統計・確率論の深い理解と応用は必須の知識(スキル)です。
AI開発の流れ
AI開発は、体系的かつ段階的に進められる必要があります。
以下では、各段階の詳細なプロセスとその重要性について詳述していきます。
要件定義
要件定義は、言うまでもなく必須のプロセスです。まず初めに、プロジェクトの目的や目標を明確に設定することが求められます。課題や解決すべき問題点を具体的に洗い出し、AIを活用することでどのような価値を提供するのかを明示することが含まれます。
データの収集方法、処理手順、場合によっては(ユーザーインターフェース)の設計などが含まれます。
また、要件定義は一度完了すれば終わりではなく、プロジェクトの進行に伴い柔軟に見直しや更新が必要です。市場環境や技術の変化に対応し、継続的に要件を評価・修正することで、AI開発が常に最適な成果を生み出すことを保証してくれるのです。
データ収集
まず初めに、収集すべきデータの種類と範囲を明確に定義する必要があります。
これは、要件定義で設定された目標や目的に基づき、どのようなデータがAIモデルにとって有益であるかを特定する作業です。
例えば、画像認識モデルを開発する場合、多様な画像データが必要となりますし、自然言語処理モデルでは大量のテキストデータが求められます。音声処理の場合は音声を。
この段階では、必要なデータの形式、量、品質基準を具体的に設定する必要があります。
データの目標が決まったら、データソースを特定し収集方法を選定します。データソースは、内部データベース、公開データセット、Webスクレイピング、APIの利用など、多岐にわたります。信頼性の高いソースからデータを取得することが重要であり、データの出所や取得方法に対する透明性を確保する必要があります。
データ整形
データ整形は、別称「データクレンジング(情報をきれいにまとめること)」とも呼ばれ、収集された生データをAIモデルの開発に適した形式へと変換するプロセスのことを言います。
この段階では、データの品質向上とモデルの精度向上を目的として、複数の手法が適用されます。
以下に、データ整形の主要な手順ついて詳述いたします。
- 欠損値の補完や異常値の除去
- データの偏りやノイズを抑える
- データの正規化および標準化
- モデルの学習効率と予測精度を向上させる
- データエンコーディング
- 文字列やカテゴリーを数値データへ変換
- データの分割
- データセットを学習用、検証用、テスト用に分割
以上のように、データ整形はAI開発における基盤を強固にするための重要な工程です。
AIモデル開発
この工程はAIプロジェクトにおける核心的な工程です。最終的な成果物となるモデルの性能をはっきりと高下させてしまうので、この工程においては細心の注意を払いたいものです。
この段階では、適切なモデルの選定からトレーニング、評価、最適化まで、多岐にわたるプロセスが含まれます。
以下に、AIモデル開発の主要なステップとそれぞれの重要性をリストアップします。
- モデルの選定
- プロジェクトの目的やデータの特性に応じて、最適なアルゴリズムやアーキテクチャを選ぶ
例えば、画像認識には畳み込みニューラルネットワーク(CNN)が適している一方で、時系列データの予測にはリカレントニューラルネットワーク(RNN)やトランスフォーマーモデルが有効です。適切なモデルを選定することで、学習効率と精度の向上が期待できます。
- データセットの分割
- トレーニングセット、検証セット、テストセットに分ける
通常、トレーニングセットには全データの70~80%、検証セットには10~15%、テストセットには10~15%を割り当てます。これにより、モデルの性能を多角的に評価できます。
- モデルのトレーニング
- レーニングデータに基づきモデルを学習させる。
学習率、バッチサイズ、エポック数などのパラメータを最適化することで、モデルの収束速度と最終的な性能を向上させることができます。
- モデルの評価
- モデルの予測精度や再現率を算出し、モデルの性能を客観的に評価する
評価結果に基づき、必要に応じてモデルの再調整や再トレーニングを行い、性能の向上を図ります。
- デプロイメント
- 開発したモデルを実際の運用環境に統合し、リアルタイムでの推論が可能となるように設定する
デプロイメント後も、モデルの性能を継続的にモニタリングし、必要に応じて再トレーニングやモデルのアップデートを実施することで、長期的な性能維持を図ります。
以上のように、AIモデル開発は複雑かつ多岐にわたるプロセスを含みますが、各ステップを丁寧に実行することで、高性能で信頼性の高いAIモデルの構築が可能となります。
AI開発に必要な環境
適切な開発環境を整えることで、開発プロセスのスムーズな進行や高品質なAIモデルの構築が可能となります。本節では、AI開発に必要な環境について包括的に解説し、具体的な要素ごとに詳細を掘り下げていきます。
大規模データストレージ
AIモデルの訓練および運用には膨大な量のデータが必要とされるため、効率的かつ信頼性の高いデータストレージソリューションの確保が求められます。
まず、スケーラビリティ(拡張性の高さ)が重要です。データ量はプロジェクトの進行に伴い増加する傾向があるため、容易に拡張可能なストレージシステムを選択することが必要です。クラウドベースのストレージサービスは、需要に応じて柔軟に容量を調整できるため、多くのAI開発プロジェクトで採用されています。
次に、データのアクセス速度も考慮すべきポイントと言えるでしょう。高速なデータアクセスが可能なストレージは、モデルの訓練時間を短縮し、開発プロセスの効率化に寄与します。分散型ファイルシステムや高速なSSDストレージの利用が有効です。
セキュリティ対策も忘れてはいけません。データの暗号化やアクセス制御機能を備えたストレージソリューションを選択することで、機密情報の保護やコンプライアンスの遵守を確実に行うことができます。
ライブラリ・フレームワーク
ライブラリ・フレームワークは複雑なアルゴリズムやデータ処理の実装を進めるために、効率的なものを選ぶことをお勧めします。
AIモデルの訓練や推論処理において、高速な計算能力と大規模データの処理能力を持つライブラリ・フレームワークは、開発の効率化に直結します。GPUや分散コンピューティングとの相性が良いツールを選ぶことで、処理速度の向上とコストの最適化が図れます。
開発効率の向上だけでなく、最終的なAIモデルの性能と信頼性にも大きく寄与します。
プログラミング言語
適切なプログラミング言語の選択は、以下のポイントを考慮することが重要です
- プロジェクトの要件
- リアルタイム性、スケーラビリティ、プラットフォーム互換性などを基準に選定
- ライブラリとフレームワークの充実度
- 効率的に実装できるライブラリやフレームワークが豊富に存在するかを確認すること
- コミュニティの質
- 活発な開発者コミュニティが存在し、問題解決や情報共有が容易に行える環境が整っていること
以上の観点から、プロジェクトの特性やチームのスキルセットに最適なプログラミング言語を選定することが、効率的かつ効果的なAI開発を実現する鍵となります。
AI開発におすすめの環境5選
AI開発を効率的かつ効果的に進めるためには、適切な開発環境の選定が不可欠です。開発環境は、データの保存・管理、モデルの学習・デプロイメント、プログラミング言語やライブラリの利用など、AIプロジェクトの各フェーズにおいて重要な役割を果たします。
本節では、AI開発において特におすすめしたい環境を5つ紹介し、それぞれの特徴や利点について詳述します。
AWS S3 Bucket(データストレージ)
Amazon Web Services(AWS)が提供するS3(Simple Storage Service)バケットは、スケーラブルで高可用性を持つデータストレージソリューションとして、AI開発において不可欠な存在です。
S3バケットは、構造化データおよび非構造化データの両方を効率的に保存・管理することが可能であり、大量のデータを必要とするAIプロジェクトに最適です。
AWS LambdaやAmazon SageMakerとの連携によって、データの自動処理や機械学習モデルのトレーニングが効率的に行えます。
AWS SageMaker(学習・デプロイメント)
Amazon SageMakerは、機械学習モデルの開発、学習、およびデプロイメントを包括的にサポートするマネージドサービスです。
SageMakerは、データサイエンティストや開発者が効率的にモデルを構築・運用できるよう、多様な機能とツールを提供しています。
TensorFlowやPyTorchなど、人気の高い機械学習フレームワークとの互換性があり、柔軟な開発が可能です。
モデルのデプロイメントにおいても、SageMakerはトレーニング済みモデルをワンクリックでエンドポイントにデプロイし、リアルタイム推論が実現可能になっています。
Amazon S3に保存されたデータを直接取り込み、データパイプラインを構築することもできます。
AWS SageMakerは、機械学習プロジェクトの学習からデプロイメントまでを一貫してサポートし、開発者の生産性とモデルの品質を大幅に向上させる強力なツールです。
TensorFlow(ライブラリ)
TensorFlowは、Googleが開発したオープンソースの機械学習ライブラリであり、特にディープラーニングの分野で広く利用されています。
TensorFlowは、その柔軟性とスケーラビリティにより、研究者からエンジニアまで幅広いユーザーに支持されています。
CPUやGPUだけでなく、TPU(Tensor Processing Unit)といった専用ハードウェアにも対応しており、大規模なデータセットや複雑なモデルのトレーニングを効率的に行うことができます。
TensorFlowは、その多機能性と高い拡張性により、大規模なデータ処理から高度なモデル構築、効率的なデプロイメントまで、幅広いニーズに対応できるため、AIプロジェクトの成功に不可欠なライブラリとして広く採用されています。
Transformers(ライブラリ)
Transformersは、自然言語処理(NLP)の分野において革新的な成果をもたらしたオープンソースのライブラリです。
Transformersは、BERT、GPTなど数多くの最先端の事前学習モデルをサポートしています。これらのモデルは、テキスト分類、質問応答、文章生成、翻訳など、さまざまなNLPタスクに対応しており、ユーザーはニーズに合ったモデルを選択して利用することができます。
Python(プログラミング言語)
Pythonは、AI開発において最も広く利用されているプログラミング言語です。
シンプルで読みやすい文法により、開発者は迅速にプロトタイプを作成し、複雑なアルゴリズムを効率的に実装することが可能です。
また、Pythonは豊富なライブラリやフレームワークを有しており、機械学習、深層学習、データ解析など、さまざまなAI関連のタスクに対応しています。
Pythonは、Windows、macOS、Linuxといった主要なオペレーティングシステムで動作するため、開発環境の柔軟性においても評価が高いです。
詳しい解説については、以前の記事「AI開発に強いプログラミング言語とは?主流言語やライブラリも紹介!」をご参照ください。
まとめ
本記事では、AI開発に必要な技術、開発の流れ、そして適切な開発環境について詳細に解説しました。
自社内で全ての準備をすることは難しいですが、それでも適切な技術と環境を用意すれば、AI開発をすることは可能です。
今後のAI開発において、この記事が一助となれば幸いです。
この記事の著者

児玉慶一
執行役員/ AI・ITエンジニア
愛称: ケーイチ
1999年2月生まれ。大学へ現役進学後数ヶ月で通信キャリアの営業代理店を経験。営業商材をもとに100名規模の学生団体を構築。個人事業主として2018年〜2020年2月まで活動したのち、2020年4月に広告営業事業を営む株式会社TOYを創業。同時期にITの可能性を感じプログラミングを始め、現在はITエンジニアとして活動中。2021年にLeograph株式会社に参画し、AI研究開発やWebアプリ開発などを手掛ける。 「Don't repeat yourself(重複作業をなくそう)」「Garbage in, Garbage out(無意味なデータは、無意味な結果をもたらす)」をモットーにエンジニア業務をこなす。
【得意領域】
業務効率化AIモデル開発
事業課題、戦略工程からシステム開発
Webマーケティング戦略からSaaS開発