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AI開発のコストが高い理由とは?費用相場や代表的事例も解説

AIブームと言われ始めて久しくなりつつある昨今ですが、多くの企業がAIを活用し始めている流れから、新規でAIの導入・開発を進めようとする企業が増えてきました。

しかし、新規でAIの導入・開発を進めていくにあたり、「開発にはいくらかかるのか」という費用相場を把握しておかなければ、適切なAI開発を検討することも難しくなるでしょう。

今回は、新規でAIの導入・開発を進めていくにあたってかかる費用の相場や、AI開発のコストが高い理由などを詳しくご紹介していきます。

AI開発のコストが高い理由

AI開発に伴うコストの高さには、さまざまな要因が複合的に影響していますが、最も大きいのは「人件費」と言っていいでしょう。

優秀な技術者や専門家の確保が不可欠であり、AIモデルの精度を高めるための大量かつ質の高いデータの収集が求められ、その過程で多くの時間とリソースが投入されます。

人件費のみならず、AIシステムの運用には高性能なサーバーやインフラストラクチャの維持が欠かせず、これらの運用費用も総コストに大きく影響します。

これらの要素が相互に作用し、AI開発の総費用を押し上げているのです。以下では、これら各要素について具体的に詳述し、AI開発の高コストの背景を明らかにしていきます。

優秀なメンバーが必要となる

AI開発において、優秀なメンバーの確保はプロジェクトの成功に直結します。高度な技術力と専門知識を持つエンジニアやデータサイエンティストは、複雑な問題を解決し、効果的なAIモデルを設計・実装する上で欠かせません。

最新の技術動向を把握し、最適なアルゴリズムやツールを選定する能力を持っており、プロジェクトの品質と効率を大幅に向上させる優秀なメンバーが必要となるのです。 

そのため優秀な人材の採用競争は激しく、報酬水準も上昇傾向にあります。

採用だけでなく、継続的な教育や研修への投資も必要となります。このように、優秀なメンバーの確保と維持は、AI開発のコストを押し上げる主要な要因の一つとなっています。

データの収集に時間がかかる

質の高いデータの収集には多大な時間が費やされます。

まず、AIモデルの精度を向上させるためには、大量かつ多様なデータが必要です。これにより、モデルはさまざまな状況や条件下でのパフォーマンスを最適化することが可能となります。しかし、適切なデータを収集するためには、信頼性の高いデータソースの特定やアクセス権の取得など、多くの前準備が必要となります。

また、データの多様性を確保するために、異なる地域や業界からのデータを統合することも必要となり、この統合作業も時間を要する要因となります。 

このように、データの収集には多岐にわたる作業とそのための時間が求められるため、AI開発全体のコストに大きく影響を与える要因の一つとなっています。質の高いデータを効率的に収集・整備することは、成功するAIプロジェクトの基盤を築く上で欠かせないステップです。

データの整形に時間がかかる

データの整形は、AI開発における重要な工程であり、このプロセスには多大な時間が要求されます。生データは通常、ノイズや欠損値、不整合性を含んでおり、これをそのままモデルに投入すると、予期せぬ結果や低精度な予測を招く可能性があります。

したがって、データを分析可能な形式に変換し、品質を確保するための整形作業が不可欠となります。 こういった作業を「データクレンジング」と呼びます。

特に、機械学習アルゴリズムは入力データのスケールに敏感であるため、適切な前処理なしでは最適な結果を得ることが困難です。

データの整形に要する時間は、AIプロジェクト全体のスケジュールやコストに大きく影響を及ぼす要因となっており、効率的かつ精密な作業が求められます。

精彩なモデル設計が求められる

モデル設計の精度は、最終的なAIシステムの性能や信頼性に直結するため、細心の注意と高度な専門知識が求められます。

適切なモデルアーキテクチャの選定やアルゴリズムの最適化は、効率的な学習プロセスと高精度な予測を実現するために不可欠です。 

モデル設計には対象とするタスクやデータの特性に応じた適切なアーキテクチャの選択が必要です。例えば、画像認識には畳み込みニューラルネットワーク(CNN)、自然言語処理にはトランスフォーマーモデルが適しています。

このバランスを適切に管理するためには、プロジェクトの目的や利用可能なリソースを総合的に考慮する必要があります。精巧なモデル設計はAI開発における競争力の源泉であり、成功への不可欠な要素と言えるでしょう。

サーバー費用がかかる

AI開発にはサーバー費用がかかることも忘れてはいけません。

高性能な計算資源を提供するサーバーの導入には、初期投資として多額の費用が必要となります。特に、深層学習モデルのトレーニングや大量のデータ処理を行う場合、高性能なGPUや専用ハードウェアを備えたサーバーが求められ、その導入コストは急速に増加します。 

最近のAI開発にはクラウドサーバーが扱われることも珍しくありません。そういったクラウドサービスの利用時には、継続的な利用料金が発生します。

AWSやAzureといった主要なクラウドプロバイダーを利用する場合、使用したリソースに応じた料金体系となっており、長期間にわたる利用やスケーリングに伴い、費用が累積的に増加する傾向があります。このため、予算管理とコスト最適化が不可欠となります。

データの保存やバックアップのためのストレージ費用も無視できません。AI開発では、大量のデータを効率的に保存し、安全にバックアップする必要があります。

セキュリティ対策やシステムアップデートに対する継続的な投資も求められ、これらが総合的なサーバー費用を押し上げる要因となります。 

AI開発の費用内訳

AI開発の費用は、主に人件費が大部分を占めています。これに加え、システムエンジニアリングやデータサイエンス、データエンジニアリング、プログラミングといった各分野の専門家の人件費が必要となります。

本節では、これらの具体的な費用内訳について詳しく解説します。

システムエンジニアリング(人件費)

高度な技術力を有するエンジニアを確保するためには、競争力のある給与設定と充実した福利厚生が不可欠です。

また、専門スキルを持つ人材の採用には相応のコストが伴います。特にAI技術に精通したエンジニアは市場価値が高く、採用プロセスにおいてはリクルートメントエージェンシーの利用や採用キャンペーンの実施など、追加的な費用が必要となります。

技術の進化が速いAI分野においては、最新の知識とスキルを維持するためのトレーニングが欠かせません。これには、外部講師の招聘やオンラインコースの受講費用などが含まれ、長期的な技術力の向上に寄与します。

データサイエンス(人件費)

統計知識、機械学習の専門スキルを有するデータサイエンティストも、やはり給与水準が高い傾向にあります。

データサイエンスは、データの前処理や解析、モデルの構築・評価といった多岐にわたる作業が含まれるため、多様な専門知識を持つチームの編成が必要です。これに伴い、複数の専門職の人件費が発生し、プロジェクトの規模や複雑さに応じてコストが増加します。

また、データサイエンス分野は技術の進化が著しいため、継続的な教育や研修への投資も欠かせません。

これらの役割に対する人件費も含まれ、全体としてデータサイエンスにかかる人件費はAI開発全体のコストに大きく影響を与える要素となります。

データエンジニアリング(人件費)

データエンジニアは、大規模なデータ処理やデータパイプラインの構築、データベースの管理と最適化など、専門的な技術スキルを必要とする役割を担っています。そのため、優秀なデータエンジニアの採用にも、前述までと同様に強気な給与設定が必要となってしまいます。

採用においては、データエンジニアの確保が難航する現状を踏まえ、人材エージェントの活用や採用マーケティングが重要となります。データエンジニアリングにかかる人件費はAI開発全体のコストに大きな影響を与える重要な要素となります。

プログラマー(人件費)

プログラマーに関しては、近年生成AIによるプログラミングが主流になりつつあるため、前述までとは違って大きな人件費コストを払うことにはならないと言っていいでしょう。しかし、プログラムに対する責任を終えるほどのスキルは持ち合わせておきたいものです。

そう言った意味では、競争力のあるAIソリューションの開発を実現するためには、一定以上の人件費を払う覚悟を持つことが求められます。

インフラコスト

AIシステムの運用には、高性能なハードウェアや信頼性の高いネットワークインフラが必要とされるため、これらの設備投資や維持管理にかかる費用は無視できません。 

AIを学習させるためには、強力なGPU搭載サーバーや高性能なCPUが必要です。初期投資だけでなく、定期的なアップグレードやメンテナンス費用も発生します。

また、データセットを適切に保管しておく必要もあるため、データストレージおよびネットワークインフラにかかる費用も重要です。大容量かつ高速なストレージデバイスや堅牢なネットワーク環境が求められ、それに伴う設備投資や運用コストが発生します。

インフラコストはAI開発における多岐にわたる要素から構成されており、プロジェクトの規模や要件に応じて大きく変動します。企業はこれらのコストを適切に見積もり、効率的なインフラ管理を行うことで、AI開発の成功と持続可能な運用を実現することが求められます。

AI開発の費用相場

AI開発の費用相場は、プロジェクトの規模や複雑さ、使用する技術、必要なリソースなど多岐にわたる要因によって大きく変動します。そのため、正確な費用を一概に提示することは困難ですが、一般的な開発規模ごとのおおよその費用感を次項で紹介いたします。これにより、貴社のプロジェクトに適した予算の検討にお役立ていただければ幸いです。

最小規模: 500万円〜1,000万円

この範囲内で実現可能なプロジェクトは、基本的なAI機能の導入や既存のプラットフォームを活用したカスタマイズが中心となります。

例えば、シンプルなチャットボットの開発、限定されたデータセットを用いた初歩的なデータ分析ツールの構築、特定業務の自動化などが該当します。 この規模では、専門的な技術者の数や高度なモデルの設計・開発に充てるリソースが限られるため、オープンソースのソリューションや既存のAIサービスを活用することが一般的です。

小規模: 1,000万円〜5,000万円

小規模のAI開発プロジェクトでは、総費用が1,000万円から5,000万円程度となります。

前述の開発規模よりも高度なAI機能の導入やカスタマイズが可能となり、プロジェクトの幅が広がります。複数のデータソースを統合した高度なデータ分析ツールの構築、業務プロセスの高度な自動化などが該当します。 

また、データの収集や整形においても、より多様で大量なデータを扱うための工夫が求められ、データエンジニアリングの効率化が図られます。AIシステムの精度や信頼性が向上し、ビジネスへのインパクトも大きくなります。

基本的なAI機能の拡張に加え、カスタマイズ性や運用性を重視した高度な開発が実現可能となり、企業のニーズにより適合したAIソリューションを提供することが可能です。

中規模: 1億円〜3億円

総費用が1億円から3億円程度の範囲では、比較的複雑なAIシステムの構築が可能となり、企業の多様なニーズに対応したソリューションの提供が実現します。

具体的には、画像認識技術を応用した自動検出システムの構築、大規模なデータ分析プラットフォームの導入などが該当します。 

この規模のプロジェクトでは、専門性の高いエンジニアやデータサイエンティストを多数配置し、各分野の専門知識を活かした開発が行われます。研究開発に充てるリソースが増加し、最先端技術の採用やカスタマイズが可能となります。

これにより、AIシステムの精度やパフォーマンスが大幅に向上し、ビジネスプロセスの最適化や新たな価値創出に寄与します。 データの収集および整形においても、より大量かつ多様なデータを効率的に処理するための高度なデータエンジニアリング手法が導入されます。

大規模: 5億円〜

予算規模が5億円以上となるような大規模のAI開発プロジェクトでは、企業の戦略的な目標を達成するために、最先端のAI技術を駆使した包括的なシステムの構築を目的としています。

グローバルに展開する製造業における予知保全システムの開発や、金融業界における高度なリスク管理モデルの構築、医療分野での先進的な診断支援システムの導入などが該当します。 

日本の政府予算で開発されるような案件もこの開発規模になることが多いです。

データサイエンス、機械学習、深層学習、自然言語処理、コンピュータビジョンなど、各分野の専門知識が融合され、高度なアルゴリズムの設計と最適化が行われます。運用と保守においても、専用の運用チームが配置され、モデルの継続的な監視とアップデートが行われます。

5億円以上の予算を投じた大規模AI開発プロジェクトは、企業の長期的な成長と持続可能な成功に寄与する重要な投資となります。

AI開発の代表的事例3選

本節では、AI開発の代表的な事例として3つを紹介します。それぞれのプロジェクトにおける開発費用や実装された技術について詳述し、具体的な成功例を通じてAI導入の効果とコストパフォーマンスを明らかにします。

AI開発の実際の投資規模とその成果を理解するための参考となれば幸いです。

OpenAI ChatGPT(テキスト生成)

OpenAIのChatGPTは、テキスト生成分野における最先端技術として広く認知されています。特に、マイクロソフトによるOpenAIへの総額100億ドル(約1.3兆円)の出資は、その技術的優位性をさらに強化する重要なステップとなっています。

巨額の投資により、ChatGPTは2025年時点で市場で最もハイパフォーマンスなテキスト生成AIとしての地位を確立することが期待されています。

マイクロソフトは、2019年に初めてOpenAIに対して10億ドルを投資し、GPT-3の独占ライセンスを取得しました。この戦略的パートナーシップは、同社の検索エンジンBingを大幅にアップグレードする基盤となっています。

Google BERT(検索エンジン技術)

GoogleのBERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)は、自然言語処理分野における革新的な技術として2018年にGoogleの研究チーム(Jacob Devlin氏ら)によって開発されました。

BERTは検索エンジンの精度向上に寄与し、ユーザーの検索意図をより深く理解する能力を持っています。この技術の開発には、公開された具体的な費用は明らかにされていませんが、類似のAIモデルの開発コストやGoogleの大規模なインフラを考慮すると、数百万ドル(数億円)から数千万ドル(数十億円)の範囲で推定されます。 

やはり、この規模の予算には優秀なAI研究者の人件費が大きく影響しています。

GoogleのAI研究者は高給であり、BERTのような高度なモデルの開発には、複数年にわたる継続的な研究と開発が必要です。さらに、膨大な計算リソースとデータ処理コストも含まれており、これらはモデルの精度と性能を確保するために不可欠です。 

参考までに、GoogleのAI研究部門全体の年間予算は数十億ドルに上るとされており、BERTはその一部として開発されました。この大規模な投資により、Googleは検索エンジンの競争力を維持・強化し、ユーザーに対してより的確で迅速な情報提供を実現しています。BERTの導入により、複雑な検索クエリや自然言語のニュアンスを理解する能力が向上し、検索結果の関連性が著しく改善されました。

総じて、Google BERTの開発は膨大な資金とリソースを投入した成果であり、検索エンジン技術の進化において重要なマイルストーンとなっています。

Apple Siri(音声認識)

AppleのSiriは、音声認識技術の代表的な事例として広く認知されています。

Siriは2010年4月にSiri, Inc.を約2億ドル(当時の為替レートで約150億~250億円)で買収された後、Apple製品に統合されました。この買収には、Siriの高度な音声認識技術、知的財産、そして優秀なエンジニアリングチームの獲得が含まれており、当時のベンチャーキャピタルからの約2400万ドルの投資に対して約8倍以上のリターンをもたらしました。

Siriの開発には長年にわたる研究が基盤となっており、特に国防総省からの約1億5000万ドルの資金提供を受けた研究成果が大きく貢献しています。このような大規模な投資は、音声認識技術の精度向上とユーザーインターフェースの革新に直結しており、Appleの製品におけるユーザー体験の質を大幅に向上させました。

Siriの音声認識技術は、自然言語処理(NLP)と機械学習の最新技術を駆使しており、ユーザーの発話を高精度で理解し、適切な応答を生成する能力を持っています。これにより、スマートフォンやスマートスピーカーなど、さまざまなデバイスでの音声操作が可能となり、日常生活の利便性が飛躍的に向上しました。

さらに、AppleはSiriの継続的な改善と拡張に多額の投資を行っており、常に最新のAI技術を取り入れることで、競争力を維持しています。例えば、機械学習モデルの最適化やクラウドインフラの強化など、技術的な側面での投資が継続的に行われています。 

まとめ

本記事では、AI開発にかかる高コストの理由や費用の内訳、さらには費用相場と代表的な事例について詳しく解説しました。AI開発における高コストがもたらす成果と、それに伴うリターンのバランスを示す好例となれば幸いです。

 総じて、AI開発は多岐にわたる要素が絡み合うため、慎重な計画と十分な資金投入が必要不可欠です。しかし、その投資に見合った高度な技術革新とビジネス価値の創出が可能であり、今後もますます重要な分野として注目されることでしょう。

この記事の著者

児玉慶一(ケーイチ)

児玉慶一

執行役員/ AI・ITエンジニア

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愛称: ケーイチ
1999年2月生まれ。大学へ現役進学後数ヶ月で通信キャリアの営業代理店を経験。営業商材をもとに100名規模の学生団体を構築。個人事業主として2018年〜2020年2月まで活動したのち、2020年4月に広告営業事業を営む株式会社TOYを創業。同時期にITの可能性を感じプログラミングを始め、現在はITエンジニアとして活動中。2021年にLeograph株式会社に参画し、AI研究開発やWebアプリ開発などを手掛ける。 「Don't repeat yourself(重複作業をなくそう)」「Garbage in, Garbage out(無意味なデータは、無意味な結果をもたらす)」をモットーにエンジニア業務をこなす。
【得意領域】
業務効率化AIモデル開発
事業課題、戦略工程からシステム開発
Webマーケティング戦略からSaaS開発